賃貸中物件の売却で『契約不適合責任』を問われないようにするためには
前回のコラムで、民法改正により「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」となったことをご紹介しました。
「契約不適合責任」では、契約書に記載されているかが重要となり、売主は売買契約時にしっかりと物件の状態を把握し、契約書に明確に記載をすることが求められます。契約書に記載されていない欠陥や不具合については、買主は売主に対して責任追及ができるようになりました。
では、投資用等で誰かに賃貸中の物件を売却する際、売主が契約不適合責任を問われないようにするには、どのような対処法があるのでしょうか。
インスペクション(建物状況調査)を行う
インスペクションとは、住宅の設計・施工に詳しい建築士などの専門家が、住宅の劣化や不具合などの状況について調査を行い、欠陥の有無や補修するべき箇所などを客観的に検査するものです。
今回の改正で、欠陥・不具合があっても契約書に記載していれば責任追及は問われないということなので、売却前にインスペクションを行って専門家に調査してもらうことはとても効果的であります。
しかし、これは売却前にタイミングよく空室の状態であるか、もしくは入居中であれば入居者の方に協力をしてもらわなければならないので、少しハードルは高いと思われます。
売却を考えられている方は、空室になった時に調査しておくのも良いかもしれません。
契約不適合責任を負う範囲を先に規定する
売買契約を締結する前であれば、売主が契約不適合責任を負う範囲を先に規定することも効果的です。契約不適合責任は買主に手厚い制度である反面、売主にとって責任は従来より重くなります。よって、買主が同意すれば、売主は契約不適合責任を負わないとする特約も有効です。(※売主が宅地建物取引業者で、買主が一般の方の場合、売主は契約不適合責任を免責する特約をすることはできません)
例えば、経年劣化で不具合が懸念される箇所については、「経年劣化が激しいため雨漏りについては契約不適合責任に含まれない」というようなことを先に買主に交渉しておく、ということです。また、過去に修繕をしていて傷みやすくなっている箇所や、欠陥が起きた場合の修繕費が大きくなる箇所についてはあらかじめ買主と交渉し、責任の範囲を規定しておくことも効果的です。
ただし、明らかに買主が不利になるような内容であると無効になることがあるので注意が必要です。
瑕疵保険に加入する
「既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ)」に加入するのも一つの案です。いわゆるこの瑕疵保険に加入すると、構造耐力上主要な部分、雨水の侵入を防止する部分に瑕疵があった場合に、その補修費用や調査費用などが補填されます。
ただし、加入の際は検査が必要で、一定の基準を満たす住宅である必要があり、必ず加入できるとは限りません。
瑕疵保険に加入していることで、売主の予期せぬ欠陥や不具合が起こった時でも保険が適用されるということで、売主だけでなく、買主にとっても購入時の安心材料となるでしょう。
まとめ
今回の改正により、売買時に売主は物件の状況を細かく把握し、それを契約書に記載しておくことで責任追及を逃れることができますが、賃貸中の物件については現状を細かく調査するのはなかなか難しいことです。
売却後に買主から不明解な請求をされる可能性もありますし、逆に購入された方が請求したくてもできない状況が生まれるかもしれません。
法改正は必ずしも完璧なものではなく抜け穴のような事案がその都度生まれてくるのも事実です。
売主、買主、双方が悪意なく健全な取引をするためにも、普段から所有物件の状態を気にかけ、自身で契約内容を理解し、不明な点や分からないことがあれば信頼できる不動産業者や担当者をパートナーにしておくことが大切だと思います。