韓国の不動産事情はご存知ですか?
そもそも、日本と海外では、「不動産」の呼び方に違いがあります。
日本で「マンション」と言えば、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の中高層集合住宅を指し、分譲・賃貸の両方が含まれます。一方、英語の「mansion」は大邸宅や豪邸を意味することが一般的で、日本でいうマンションは「apartment」や「condominium」と表現されます。
今回訪れた韓国・ソウル特別市では、日本と同様に「アパート(아파트)」と呼ばれる集合住宅が住宅市場の中心となっています。しかし、その住宅事情や不動産市場の仕組みには、日本とは異なる特徴が数多く見られます。
今回は、現地で実際に街を歩いて感じたことも交えながら、ソウルの集合住宅事情や日本との違いについてご紹介します。
韓国中心部の街並みとは…
韓国・ソウルを訪れてまず驚いたのは、高層の集合住宅が非常に多いことでした。車窓から見える景色にも、同じような外観の高層住宅が多く並んでおり、今回訪れたエリアでは一戸建て住宅を見かける機会はほとんどありませんでした。
日本でも都市部ではマンションが多く建ち並びますが、ソウルではその存在感がさらに大きく感じられます。今回はソウルの中でも、東大門(トンデムン)、明洞(ミョンドン)、聖水(ソンス)を訪れました。
ソウルを代表する商業エリアの一つである東大門は、東大門総合市場をはじめとする卸売市場や、ファッションビルが集積し、「眠らない街」とも呼ばれています。昼夜を問わず多くの人が行き交う商業地である一方、商業エリアのすぐ近くに高層アパートも多く見られ、商業と住宅が近接している点が印象的でした。
また、明洞は観光客が多く集まるエリアで、住宅地というよりも日本でいう繁華街のような印象を受けました。夜には多くの屋台が並び、活気あふれる街並みが広がっています。また、12階建てのビルが一棟丸ごとダイソーの店舗として利用されているなど、街全体が観光・商業機能を中心に形成されている様子が印象的でした。
一方、聖水はかつて工場や倉庫が多く立ち並んでいたエリアです。近年では、それらの建物を活用した店舗が増え、外観は古い工場や倉庫のようであっても一歩中に入ると、落ち着いた雰囲気のカフェや、美容大国らしく化粧品が数多く並ぶショップへとリノベーションされています。こうした既存建物を生かした店舗と、新しく整備された施設が混在しており、街全体で再開発が進んでいる様子を感じました。
歴史からひも解くソウルの街並み
ソウルは山々に囲まれた地形で、平地が限られています。こうした地形的な条件に加え、1960年代以降の急速な経済成長と都市化に伴って人口が集中し、限られた土地を有効活用する必要があることから、高層住宅がより早く発展してきました。
そのため、韓国の「アパート」は、日本より大規模な物が多いことが特徴です。数百戸から数千戸規模の住宅団地として整備されるケースも多々あり、敷地内には公園や商業施設、教育施設などが整備され、一つの街のような役割を持つこともあります。
ソウルの街並みは長い歴史の中で都市機能を広げながら形成されてきました。
東大門という名称は、朝鮮王朝時代の1396年に築かれた城門「興仁之門(フンインジムン)」に由来します。この一帯は、漢城(現在のソウル)の城門周辺として人や物資が集まり、古くから交通・物流の要衝として発展してきました。その後、東大門運動場が整備され韓国スポーツ文化の中心地となり、1970年代以降は周辺に縫製業や古着加工業が集積したことで、現在の東大門ファッション街の礎が築かれました。
都市の中心部に人が集まると、その周辺にも商業や文化が広がっていきます。
明洞では20世紀初頭から商業施設や金融機関が集積し、商業地区として発展しました。1945年韓国独立後に文化・芸術の中心地として再開発され、その後、経済成長と国際化で、現代のソウル最大級の商業・観光の中心地へと急成長しました。
さらに都市が成熟すると、周辺地域にも新たな価値が生まれます。
聖水は、1970~1990年代に靴工場や自動車整備工場などが集積し、軽工業の中心地として発展しました。しかし、1997年のアジア通貨危機等で工場が閉鎖・郊外移転し、古い建物だけが取り残されました。2010年代に入ると、古い建物をリノベーションしたカフェやショップが増え、若いクリエイターが集まる人気エリアへと生まれ変わりました。聖水は工業遺産を活かした都市再生の成功例といえるでしょう。
多くの都市では、人や物流が集まる拠点を中心に周辺へ市街地が広がっていきます。ソウルも歴史の中で役割を変えながら、現在の街並みが形成されてきました。商業機能を維持しながら発展してきた東大門、商業地として発展した明洞、都市再生が進む聖水など、それぞれの地域特性を理解することは、韓国の不動産市場を知る上でも重要なポイントといえるでしょう。
日本では建物の経年による価値低下を考慮するケースが多い一方、韓国では立地や再開発への期待、エリアのブランド力などが不動産価値に大きく影響します。街の歴史や再開発の方向性を知ることは、不動産市場を理解する上でも重要な視点といえるでしょう。
ただし、近年では、日本でも都市部の再開発エリアや人気エリアでは土地価値が重視されるなど、両国の不動産市場には共通する部分も見られます。
日本とは異なる賃貸制度「チョンセ(전세)」
日本の一般的な賃貸住宅では、入居者が毎月家賃を支払う「月払い」が主流です。一方、韓国には「チョンセ(전세)」という独特な賃貸制度があります。
チョンセ制度とは、入居時に貸主へ高額な保証金(チョンセ金)を預け、契約期間中は家賃を支払わずに住むことができるという仕組みです。保証金は一般的に物件価格の半分程度になることが多いとされており、契約期間は2年が一般的です。契約終了時には原則として預けた保証金が入居者へ返還されますので、保証金は非常に高額ですが、入居者にとっては家賃が実質タダになるというメリットがあります。
また、貸主側は預かった保証金を運用したり、不動産投資の資金に充てたりすることができます。
日本ではあまり見られない制度ですが、韓国では長年、住宅市場を支える代表的な賃貸形態として定着してきました。
しかし近年は、不動産価格の下落により、大家が保証金を使って投資した物件の市場価値が保証金を下回る場合や、大家が破産や競売にかかり、保証金を返還できなくなる等のトラブルが多発しています。
いわゆる「チョンセ詐欺」と言われるこの社会問題が多くなったことなどから、制度の見直しが進んでいます。その影響もあり、毎月家賃を支払う「ウォルセ(월세)」を選択する人も増えており、韓国の賃貸市場はチョンセ中心の市場から、チョンセとウォルセが併存する形へと変化が進んでいます。
韓国不動産から学べること
今回、ソウルの街を歩いて感じたことは、不動産は単なる「建物」ではなく、その国の人口動態や文化、金融制度、暮らし方と深く関わっているということです。
日本と韓国では住宅の形や賃貸制度には違いがありますが、利便性の高い立地や将来性のあるエリアが評価される点など、不動産に求められる価値には共通する部分もあります。
ソウル特別市の中でも、歴史ある建物を活用しながら新たな価値を生み出している聖水のようなエリアや、商業機能が集積する明洞、住宅と都市機能が融合する東大門など、地域ごとに異なる発展の形を見ることができました。不動産は、その土地の過去や現在、そして将来の姿を映し出すものだと感じました。
今回のソウル訪問を通じて、街を実際に歩き、自分の目で見ることで、不動産市場の特徴や街づくりの考え方をより深く理解できることを実感しました。今後も海外を訪れる際には、その土地ならではの不動産事情や街の変化を紹介していきたいと思います。

